最長片道切符の旅−よくある質問と回答

 「最長片道切符の旅」を公開してから、さまざまなお問い合わせをいただいております。ここでは、よくある質問およびそれに対する回答をまとめました。

 なお、いただいたメールの文面は、フォーマットを統一するために、趣旨を活用するのみとして、大幅に変更しています。また、具体例については、より妥当と思えるケースがある場合、そちらに翻案しています。

 また★を付したものは、実際にお問い合わせをいただいたものではなく、想定しうるものを私の判断で書いたものです。いわば“自作自演”ですね。

1.切符の経路について

1-1.新幹線と在来線とを別々に分けているところとそうでないところがあるようですが、どう分けているのでしょうか?

 国鉄では、新幹線は在来線の複々線として営業が開始されたため、原則としてこの2つは同一と見なされていました。すなわち、単に旅客営業キロを同一にするだけでなく、どちらに乗る場合でも、単一の経路の乗車券だけで処理されることになります。この原則は、JRになっても変わっていません(平行在来線が存在しない、東北新幹線盛岡以北、北陸新幹線、九州新幹線新八代−川内については無関係です)。この場合、どちらに乗るかは旅客の判断によります。

 ただし、新大阪−西明石の場合、新幹線に途中駅(新神戸)があり、これに該当する駅は在来線にはありません。このように、平行在来線にはない駅が新幹線側にあり、その新幹線または平行在来線の中間駅が接続駅となる場合は、その前後を在来線とは別線と扱うことになっています。このため、平行在来線の途中接続駅である尼崎を経由する場合、「京都−新大阪−(新幹線)−西明石−(在来線)−尼崎−福知山」というルートが可能となります。

 ただし、山陽新幹線新下関以西については、事情がやや特殊です。この部分については「1-6/1-7」にて説明します。

1-2.川崎付近で「尻手−(南武線)−浜川崎−(鶴見線)−鶴見−(東海道線)−品川−(東海道線・横須賀ルート)−横浜」というルートのほうが、距離が伸びるのでは? 【複数】

 品川−新川崎−横浜は、新川崎から横浜まで中間駅がないため、全区間が東海道本線とは別ルートと考えるのが自然なのですが、このうち鶴見−横浜は、メインの東海道本線と同一区間として扱われます。品川−新川崎−鶴見は独立した区間ですが、上記ルートをとると、鶴見でひとまわりしてしまい、乗車券が打ち切られてしまいます。したがって、このルートを採用することはできません。

1-3.東海道本線の関ヶ原−大垣で迂回線を経由すると距離が伸びるのでは?★

 この迂回線は下りのみにしか使われないので、該当区間を上りで通過する最長片道ルートには組み入れられません。なお、どちらを利用しても、実際に乗車する距離はともかく、営業キロや運賃計算キロには変化はありません。

1-4.19日目で「「天王寺−京橋」区間は大阪環状線を経由するので、短い区間(内回り)で運賃計算が行われることになるが、外回り・内回りのどちらで乗ってもよい。」とありますが、大阪環状線のほかに尼崎駅を通過している以上、実際の経路を指定して乗車することになるのでは?

 「旅客営業規則」により、大阪環状線、JR東西線、および東海道本線大阪−尼崎の区間では、経路を指定せずに乗車券類を発行できました。しかし、この区間をいったん出てから再度この区間を通過する場合は、実際に経路を指定することになっています。今回の経路では、奈良→天王寺→京橋→木津…西明石→尼崎→福知山と、大阪環状線を経由したのちに尼崎駅を通っているため、この場合は「天王寺−(外回り)−大阪−京橋」が正しいルートと解します。

 発券および乗車した当時は、JR東西線の存在をすっかり忘れていたため「どちらでもよい」と書きましたが、本文中の記述は乗車時に抱いた印象をそのまま記述したものであり、正しいものではありません。すなわち、この区間については、「最長片道切符の旅」の実行者としては誤乗です。

1-5.相生−姫路では、赤穂線まわりのほうが距離が伸びるそうですが。【複数】

 切符のベースとなる営業キロ数は、山陽本線経由のほうが長くなっています。ただし、赤穂線には擬制キロ数(「換算キロ」といいます)が適用され、運賃計算キロ数では赤穂線が上回ります。詳細は、第24日の記述をご覧ください。どちらを基準にするかは、その人の判断によります。

1-6.九州の小倉−博多で、新幹線と在来線の両方に乗っていますが、この区間は同時に乗ることができるのでしょうか?

 JRの運送約款である「旅客営業規則」の68条4項3号の文言を反対解釈することにより、直接乗り継がないのであれば、双方を経路に組み込むことができると解します。ただし、JR各社および担当者の判断によって解釈が異なることがありますので、事前にしっかりと確認する必要があります。詳細は、第28日の記述をご覧ください。

1-7.九州で新幹線と在来線を別線扱い可能と解した場合「小倉−(新幹線)−博多−(鹿児島線)−吉塚−(篠栗線)−長者原−(香椎線)−香椎−(鹿児島線)−西小倉−…(中略)…−鹿児島中央−(鹿児島線)−久留米−(久大線)−夜明−(日田彦山線)−田川後藤寺−(後藤寺線)−新飯塚−(筑豊線)−原田−(鹿児島線)−鳥栖」というルートのほうが、距離が伸びるのでは? 【複数】

 JRの部内規程である「旅客営業取扱基準規程」43条2項、116条、および151条の3を組み合わせると、新在別線を前提とすれば、上記経路での片道普通乗車券は発行可能です(ただし、博多・吉塚での途中下車はできません)。「1-5」の「直接乗り継ぎ」規定の例外です。この場合、営業キロおよび運賃計算キロは、博多−吉塚を減じたものとして計算されます。したがって「最長片道乗車券」のルートとしては、こちらを取るほうが妥当でしょう。

 しかし、発券できるとはいうものの、これでは、一部区間を復乗しなければ乗れない「片道切符」になってしまいます。これは、JRの規則上「片道乗車券にできる」というだけであって、「これが“最長片道切符”だ」と胸を張って見せるには、抵抗を強く感じます。規則上認められているとはいえ、折り返“さねばならない”片道乗車券は、「片道切符」と擬制することができるにすぎず、同一扱いすることには無理があると考えます。

 このような考えをもとに、純粋に片道となる経路および乗車のみで発行可能なルートでの最小距離として、第28日のようなルートを取ったしだいです。このルートであれば、乗車券記載区間以外の付帯条件はありません。

 したがって、規則論ではなく、個人的な信条に基づく判断がベースになっておりますので、人によって見解は分かれるでしょう。おそらく、私のような結論は少数派ではないかと思いますが、本州部分のルートをそのまま採用させていただいた『鉄道旅行術』(種村直樹)も同一の見解のようです(結論が同一であるにすぎないかもしれませんが)。なお、復乗を前提とした経路の取り扱いについては、宮脇俊三氏も「尾久問題」として触れており(三河島−日暮里−尾久−赤羽というルートの是非)、同氏は「乗車券は三河島−日暮里−尾久−赤羽とする」、すなわち復乗区間が別途存在する乗車券を認める形で処理しています。

1-8.最後が肥前山口−諫早−早岐−肥前山口となっていますが、いったん通った駅にもう1度戻る経路も認められるのでしょうか?

 はい、大丈夫です。例えば「神田−秋葉原−御茶ノ水−神田」といった片道乗車券も買えます。脱線しますが、この経路の切符で山手線内回りを一周することも可能です。ただし、一周した時点で、乗車券の経路は強制的に終了となります。

1-9.肥前山口−諫早−早岐−肥前山口の経路は、逆向きでも大丈夫でしょうか? 【複数】

 はい、スケジュールや好みに応じてどうぞ。

 なお、使用開始後に勝手に逆方向に乗ることはできませんが、車掌などに申し出て経路を変更することは規則上は可能です。ただし、切符が切符ということもあり、話がややこしくなるうえ、スムーズな発行替えは技術的に不可能だと思われますので、買うときに事前に決めておきましょう。

1-10.距離をさらに伸ばすことは可能でしょうか?

 JRバス(当時)や第3セクター鉄道を使って距離を伸ばすことは可能かもしれませんが、検証するのは私の能力を超えていますので、何ともいえません。もともと、本州内の経路は先人の算出データをそのまま使っているぐらいですし。なお、発券当時は、ジェイアール九州バスが旅客鉄道会社直営で、バス路線も乗車経路に組み込むことが可能でしたが、分社化されている現在、経路に取り込める区間はきわめて少ないと推測されます。

2.旅行の経路について

2-1.新旭川−旭川で、区間外に乗車していますが、追加の運賃は不要なのでしょうか。

 列車の系統上、主要駅である旭川が実質的な乗換駅なのは明らかです。このような場合、飛び出し区間で途中下車しないかぎり、追加運賃は不要と定められている区間がいくつかあります。紀行文には何も書いていませんが、旭川では改札を出ておらず、したがって追加運賃は払っていません。切符の経路では、のちに再び旭川に戻ってきますが、区間外乗車は原則として経路外として扱われるため、復乗の問題もありません。このように、路線の分岐駅が主要駅のすぐ近くにあり、主要駅が実質的に乗換駅となっているケースが、全国に数個所あります。

 ただし、飛び出した区間で途中下車する場合には、飛び出し区間の運賃が必要となります。今回の旅の場合、小山−安積永盛−水戸ルートで郡山まで行ったときには、郡山で降りるときに安積永盛からの乗り越し運賃を払い、乗るときに「郡山→安積永盛」の乗車券を別途買っています。

 なお、五稜郭−函館間については、例外的に、追加運賃を払わずに函館駅の改札を出ることができるというローカルルールがあると聞いたことがありますが、確証はありません。私は一般ルールどおり、飛び出し区間の運賃を支払って下車しました。

2-2.森−大沼で渡島砂原経由にしたのは、距離が長いからですか?

 本文中ではそういうニュアンスにまとめていますが、単にこちらのほうが海が見えそうでいいかも、と思っただけのことです。

2-3.京都−新大阪で在来線に乗っていますが、新幹線のほうが実際の距離は長いはずですが?

 「最長片道切符」に取り込めるルートのうち、新幹線と在来線とが同一線とみなされる区間では、すべて在来線に乗っています。理由は単純で、新幹線と在来線が両方走っていて、乗って楽しい新幹線区間など皆無だからです。勾配やカーブの都合上、実際のキロ数で新幹線のほうが平行在来線を上回るケースはありますが、実キロにはこだわっていません。

2-4.選択乗車を使えば、実際の乗車距離をもっと伸ばすことができるのでは?★

 広島−徳山がこれにあたります。山陽本線の広島−岩国と山陽新幹線の広島−新岩国は選択乗車区間(どちら経由の乗車券を持っていてももう一方の経路で乗車できる区間)になっており、なおかつ広島−岩国より広島−新岩国のほうが長い(新岩国駅は岩国駅よりはるか西にあります)ので、広島−新岩国…(バスなどで連絡)…岩国−徳山というルートをとると、実際の乗車距離を伸ばすことは可能です。ただし、最初から「広島−新岩国…岩国−徳山」という乗車券を買うことはできません(片道ルートとして成立しません)。

 なお、上述の新幹線の基準に準じて、私は原則として切符に記載された経路どおりに乗車しました。「乗るときにも最長を究めたい」という方は、こういうところも要注意ではありますね。

3.旅行に関して

3-1.新幹線以外をすべて普通列車で乗り継ぐことは可能でしょうか?

 距離と有効日数のバランスの問題ですが、当時のダイヤでは不可能ではありませんでした。ただし、朝から晩まで乗りづめだったり、途中での待ち時間がものすごくなったりするので、実際に旅行する場合には、現実的な方法ではないでしょう。また、鉄道好きであれば、見ただけで乗りたくなってくる特急列車の一本や二本、必ず出会えると思います。

 なお、現在では津軽海峡の下を走る木古内−中小国は、特急・急行しか走っていないため、普通列車のみで新幹線以外の全区間を踏破するのは不可能です。ただし、この区間のみを乗る場合は特急料金は不要なので「新幹線以外の特急料金を払わずに旅行する」ことは可能かもしれません。

3-2.夜行列車を使うこともできますか?★

 可能ではありますが、車窓を楽しみたかったため、私は最長片道切符の旅の途中では、夜行列車の利用は意識的に避けていました。例外は函館−青森で、これはトンネル区間が多く眠っていても気にならなかったためです。

 これ以外の区間では、稚内−旭川、旭川−網走、小倉−南宮崎で夜行列車を利用できます。しかし、眠ったまま突っ切ってしまうには惜しい区間ばかりですね。

3-3.宿泊はどうしていましたか?

 駅近くの安い宿、あるいはビジネスホテルなどを活用しました。場所を特定させたくなかったため紀行文では詳細を書きませんでしたが、帳場で100円単位で値切り交渉したことさえありました。これだけの長丁場になると、宿泊代がいちばんの負担になります。

3-4.食事はどんなものを? 駅弁中心ですか?

 各地のおいしいものをいっぱい食べるのが本来なのでしょうが、先立つものが苦しくなってきたため、後半はコンビニでカップラーメンなどという状態でした。旅のラストではバテバテ状態だったのですが、その原因は満足なものを食べていなかったことにあるといえます。牛乳や果物で補ってはいましたが、栄養補給にはもっと気を配るべきだったかと思います。

 駅弁はけっこう高いので、あまり買いませんでした。正確には「買えませんでした」というべきかもしれません。

3-5.費用はどのくらいかかりましたか?

 どこでどれくらい飲み食いしたことやら。旅行から帰ると、預金残高がスーッと減っていたのは事実なのですが、正確なところはわかりません。

3-6.最長片道切符の旅を実行するのに適した季節はいつですか?

 私は冬でしたが、初夏や秋もすてがたいように思います。冬だと国土が南北に広いことを実感できる一方で、初夏や秋だと季節の変わり目を自分の肌で北から南へと実感していくことができるでしょう。ただし初夏となると、だんだん暑くなるので参ってしまうかも。

3-7.持ち物は?

 2〜3日ぶん程度の着替え、最低限の薬、筆記用具、パンフレット類を入れるクリアケース、預金通帳、運転免許証、クレジットカード、PHSなど。カメラは一眼レフを2台。三脚を持って行くと身動きが取れなくなるので、パス。当時はノートPCは持っていませんでしたが、PDA(ザウルス)でメールのみ送受信していました。

4.そのほか

4-1.車両に関する記述が少ないですね。

 知識も関心も大してないので、記憶に残りませんし、書きようがありません。

4-2.後半になると車窓の描写が淡々としてきたような気がします。

 目も体も、列車に揺られることに慣れてしまったためでしょう。それでも、横殴りの雪を受けた山陰西線、大雪の筑豊を進む後藤寺線など、今でもハッキリと思い出すことができます。

4-3.写真は掲載しないのですか。

 記録をベースにしているとはいえ、紀行文である以上、テキストのみで読めるものにしたいと考え、写真はあえて入れていません。別途、旅行中の資料として別ページにて掲載することはできるかもしれませんが、撮影対象が漠としているうえ、駅舎を除いて「最長片道切符の旅」と関連のある被写体が少ないこと、特定の食堂や旅館などの写真は公開したくないことの2点から、写真をまとめる予定はありません。

2004年1月4日、修正
2007年3月*日、加筆修正

ご意見、ご感想などは、脇坂 健までお願いいたします。
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