北陸本線の普通列車に乗り、複線電化の際に新設されたトンネルの中を走ると、明るくなる気配もないのに制動がかかり、ほどなくして停車。ここにあるのが筒石駅で、能生と名立の間を結ぶ頸城トンネルのほぼ中間に位置しています。後述のとおり、強烈な印象を与える駅なので、鉄道ファンの間ではいろいろな面で非常に有名な駅です。
あまり“駅”という感じがしないながらも列車から降りると、【写真1】のごとく、狭いトンネル内になんとか人が通れる程度の細いホームが設けられています。一応手すりが付いていますが、トンネル内ゆえ地下水が足下を濡らしており、歩行にも注意が必要。これは、もはや列車待ちをする場所ではありません。
列車が行ってしまったあとにあらためてホームを見ると、その前のほうに、トンネルに横穴を開けるような形で出口があるのが見えます。ここほど、さっさと出たくなる駅も少ないでしょう。
また、ホームは上下でずらして設置されています。トンネルの断面を小さくするためでしょう。
ちなみに列車が到着する際には、必ず駅員がホームに立って列車の到着を見届け、また旅客の誘導を行います。トンネル内の細いホームという特殊な駅だからこそでしょう。なお、安全確認のため24時間体制で5人の要員が常駐している[1]ということで、ローカル駅とは思えない体制です。窓口営業時間も朝の6時から深夜の22時50分までと非常に長くなっており、ほぼいつでも切符を買うことができる駅です。
なお、停車間際の普通列車とはいえども、列車接近時の風圧は相当なものです。大都市の地下鉄などとはわけがちがうので、乗車の際にはご注意を。
こんなホームで列車待ちをするわけにはいきません。しかし、駅舎内の待合室で直前まで待つことも不可能です(理由は後述)。このため、ホームから頑丈なスチールの扉を隔てたところに椅子が置かれ、ここが待合室として利用されています。安全上の観点から、特急列車や貨物列車が通過する際はもちろん、通常でも普通列車到着間際までこの扉は閉ざされています。なお、列車がくると「列車がきます」という案内表示が出ます。
さて、そんな筒石駅ホームから外に出るには、延々と長い階段をのぼって地上に出る必要があります。上越線土合駅(未乗降)には及びませんが、この駅も相当なものです。傾斜は比較的緩やかですが、それゆえかえって歩幅がつかみにくい印象を受けました。左側には、エスカレータ設置を想定したと思われるスペースがありますが、現在では何も使われていません。なお、下りホームからは290段、上りホームからは280段を登る必要があります。ちなみにこの階段は、もともと頸城トンネル建設時に斜坑として使われたものを、そのまま再使用したものです。
いよいよ階段をのぼりおえると、やっと駅舎に到着します。ここでは、観光目的(駅訪問目的?)で訪れた利用者に対して、駅員がお手製の周辺資料を無料で渡してくれるうえ、案内説明をしてくれます。旧線跡の現状や探索時の注意点まで教えてくれたのは驚きで、この駅へのリピーターが多いのにも頷けます。
筒石駅にはマルス(JRの乗車券類発券システム)端末が設置されていないことから、「青春18きっぷ」の常備券を販売し、また補充券による乗車券類を発行する駅として名高く、かつては郵送による販売を大規模に受け付けていました(現在、JR西日本金沢支社の方針により通信販売は中止)。
駅舎自体は鉄骨平屋建の小ぶりかつシンプルなもので、駅前は小さな広場になっていますが、実質的には駐車場ないし待ち合わせスペースとでもいうべきで、何もありません。
駅舎から外に出ると、川沿いに急な下り坂が続いており、海に出たところに筒石の集落があります。漁港を中心に、海に沿って民家が広がっています。北陸本線旧線跡は自転車道になっていますが、ところどころ橋脚が残っていました。旧筒石駅跡はマンションに変貌しています。なお、集落から駅にもどるときには、急な上り坂になるので、相応の時間をみておくのがよいと思います。