紫香楽宮跡駅を出て灌木の中を進み、列車はほどなく雲井駅に到着します。
片面ホームのみの棒線駅ですが、かつては貨物営業が行われていたと思われるスペースがあり、また木造駅舎が健在です。ただしこの木造駅舎は相当に荒れており、駅のシンボルとして残っているに過ぎないというのが実態です。
木造板張り平屋建ての駅舎はこれといった特徴のないコンパクトな平屋の建物ですが、早い段階で無人化されていたようで、かつて出札や小荷物などを扱っていた窓口は板で封鎖されています。それどころか、窓ガラスはすでに存在しておらずビニールで覆われているほか、設置されているゴミ箱からはゴミがあふれ出て異臭を放っていました。木製のベンチが据え付けられ座布団が置かれていましたが、落ち着ける空間にはなっておらず、単に雨風をしのぐスペースに過ぎなくなっています。駅の象徴として駅舎の存在は大きいのですが、現状のまま存置しておくのは保安上も問題があるように思えてなりませんでした。駅舎から少し離れたところに、木造の小さなトイレがあります。
駅を出てすぐ右側には巨大な樹が立っており、これが駅舎といいアクセントを醸し出しています。その樹のたもとに黒電話の置かれたボックスが設けられていますが、この電話のコードは外れており、利用できません。形態から見るかぎり業務用の鉄道電話ではなさそうで、かといって公衆電話でもなく、いったい何に使われていたのか定かではありません。
ホームは1面1線というもっともシンプルな形状になっていますが、かつてはそれなりの長さの列車が発着していたようで、ホームはなかなか立派なものです。駅の南東側にある林には神社がありますが、ここへのアプローチは見あたらず、線路をわたって出入りするしかないようです。
ホームの貴生川方にはかつての貨物側線および貨物ホームの跡が残っています。現在では植木が整備されており、当然ながら線路ははがされていました。
雲井の駅は集落のなかでもっとも高いところにあり、信楽線に平行する国道から集落に入る道を丘陵方面に登り切ったところに位置しています。駅前はゆったりした広場になっており、大きいバスが楽に回転できるようになっていますが、駅前まで入る路線バスの本数はあまり多いとはいえません。
雲井はそこそこの規模の集落ですが、駅前には小商店が一軒あるのみで、駅勢圏は農家が集まっているのみのようです。紫香楽宮跡周辺には比較的新しい住宅地が造成されていますが、駅へのアプローチがよいとはとてもいえず、現状では中途半端な立地になっているといわざるを得ません。
駅名の由来
雲井の地名は「雲居」が転じたもので、「雲居」の語には、皇居のあるところ、すなわち都の意味もあるという
[1]といわれ、この地に紫香楽宮があったことから付いたものといわれます。もっとも「雲」はミカドを指す象徴であり、直接皇居を指すものであったかどうかは疑問ですが。
歴史
信楽線が開通した際に設置された駅で、勅旨駅が設けられる1963年6月までの30年にわたり、線内唯一の中間駅でした。当初は貨物営業も行う一般駅でしたが、1962年5月1日に旅客駅となっています。
- 【1933年5月8日】 開業。
周辺の見どころ
確認中。
- 村石利夫『JR・第三セクター 全駅名ルーツ事典』東京堂出版、2004年、129ページ。