飯田線は買収私鉄上がりの路線であるうえ、急峻な山岳地帯に駅を数多く設けているため、小さな駅がたくさん見られます。しかし、この田本ほどひっそりとした、そして外部から目に付きにくいように設置されている駅はほかにはないでしょう。利用客がごく少ないため、普通列車の一部は通過します。
崖の脇に、片面ホームが設けられており、その両脇はトンネルで挟まれています。平坦な場所はほとんどなく、辰野側の一部がやっと整地されているという状態です。
まず、飯田線の電車を辰野に近いところで降りると、少し幅が広くなっているところに、新しい待合室が見えます。ところが、こちらは行き止まりで身動きが取れないので、ホームに降りた人は反対方向へ向かいます。
ホームはきれいに整備されていますが、これはすぐ上の崖を整備したことによるものであり、ホームそのものが移設されたわけではありません。しかし、ホームの狭さはずいぶんなもので、このホームに立っているときに特急列車が通過することを考えると、なかなか怖いものがあります。待合室付近を拡張しているのは、広いスペースを少なくとも1個所は用意しておく必要があったためとみてよいでしょう。ただし、編成の短い列車はなぜか豊橋方に停車すること、ホームはカーブを描いていることを考慮すると、乗車する列車の到着時刻が近づいたら、豊橋方へ移動しておくほうがよいでしょう。
このホームを端まで進むと、出口が見えてきます。いや、出口といえるかどうかわかりませんが、とにかく、ホームから外へ出るところに到達します。
まずここで唖然とするのは、そもそも駅舎など設けるスペースがまったくなく、通路があるだけで精一杯ということ。それも、トンネル脇の階段をえんえんと上り、トンネル上で線路をオーバークロスするというものです。一応舗装はされていますが、落ち葉などが溜まっていてたいへん滑りやすくなっています。私は飯田線に乗るとかなり高い確率で雨に遭うのですが、雨で地盤が緩んでいるときには、駅前を歩くだけでも相応の注意が必要です。
そんな通路を進み、線路を渡ると、Y字路……というか、分かれ道に出会います。もはや道路というよりはハイキングロードと呼ぶのが妥当です。左へ行くと、中学校のある田本集落へ出られます。また右へ行くと、川田集落へ続きます。なお、この先にはハチが大量に飛んでいたため、これ以上進むのは避けました。したがって、どのような道になっているのかはわかりません。
駅の直近には人の気配はまるでなく、鉄道施設が突然沸いて出たような印象があります。単に「駅の周囲に民家がない」というだけではなく、かつてこの駅から人が盛んに出入りしたであろうという痕跡そのものが、ほとんど感じられません。これは、駅周辺の崩落防止工事や修復作業の結果、生活感が失われただけかもしれませんが、廃屋やその跡地さえない駅前というのは、寂しさを通り越して悲しくなってきます。
駅の東側に少し離れたところを、県道が飯田線と平行するように走っていますが、ここへいたる道路は自動車など通れない(入れない)わけで、駅へのアクセスは飯田線に限定されているといえます。しかし、そもそも苦労して田本駅までたどり着くのが大変で、いわゆる“交通弱者”に利用できる交通機関ではない以上、この駅の存在意義がどこにあるのかと思えました。
確認中。
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2005年9月7日